FC2ブログ

dBASEⅡVer2.4

得意満面で意気揚々とM社長に"回線設計ソフト"を初披露した瞬間が、三和無線での「終わりの始まり」となった。
評価も何もなし。忘れもしない「ふぅん・・・」の一言。それが社長の感想の全てであった。
脱力であった。この人にはこのソフトと、自分の能力の価値が理解出来ないのか・・・

だが、それから少し日数が経ってようやく気が付いた。馬鹿なのは自分自身なのだった。
自分のやっていた事は、自己満足に過ぎなかった のだ。少なくとも今のこの環境では。
前回も書いた通り、日本無線の社員の努力によって既に「省力化」という大目的は達成されていたのだ。
商品として販売するわけではないのだから、プログラムが洗練されたとか、画面の見栄えが良くなったなどという事には何の価値もないのだと理解するまでには時間が必要だった。

社長から褒め言葉のひとつももらえず落胆はしたものの、しかし性懲りもなく既に次の課題にむけて燃えていた。
当時、飛躍的に増加しつつあった商用車用のMCA車載無線機の納入が大幅に増えていた。
アマチュア無線機とは異なり、無線機の管理責任は実質的に販売納入者側にあったのである。
商用車、早く云えばタクシーや運送会社のトラック用無線機がほとんどなので、一回納入・施工をする度に数十台単位で増加していくのである。加速度的に増加する無線機の管理はとても手作業では出来ない。
・・・と焦っていたのは実は自分だけだった。
まぁ、今から思い返しても、販売日付や製造番号や納入先などの基本的な情報だけを残しておけば済む事ではあったので手書き台帳でも良かったのである。実際、事務員の手書き台帳で会社としては何も困っていなかった。
しかし、当時の自分は、責任感にかられていたというよりも、好奇心の方が先走っていた。
「今度こそデータベースや。データベースソフトでなければ多数の製品の管理など出来るはずがない。」

"Basic"には、とっくに見切りをつけていた。データベースもどきのものを作ろうとはしたが、"最初の作品"の経験で、しょせんは学習用ソフト。膨大な労力に見合う成果がとても得られない事が分かっていたためである。

そして、上手い具合に市販のデータベースソフトも出揃いつつあった。"The Card"・"Presse"・"Success"・"Rbase"・"dbMagic"・"Paradox"・"DbZaurus"・"Eve"・"桐"・etc・・・
どれもこれも高価な製品だった。一番安いのでも 58,000円から最高は 268,000円まで。

もう時効だろうから書けるのだが、自己負担で次々とそんな買い物が出来るはずもなく、レンタルソフト屋で作ったコピーソフトで各ソフトの研究を始めた。HPから試用版をダウンロードなんて想像も出来ない時代だったから。
ヒマさえあれば、日本橋のレンタルソフト屋に通う日々が続いた。

後ろめたい思いをしつつ、業務で活用出来ると判断すれば高くても正規製品を購入するという決意を免罪符として、とにかくデータベース研究に没頭する日々が続いた。

dbaseII.jpg

そして、使えそうだと判断出来たのはこれだけだった。268,000円也の"dBASEII Ver 2.4"。
「リレーショナル・データベース」。何という甘美で魅惑的なキャッチフレーズなのだろうか。
試行錯誤の末である。そこに到達するまでにはデータベースソフトの検討を始めてかなりの期間を費やしていた。

皮肉にもその事が自分を窮地に陥れているのだと認識しつつ、データベース研究を止める事が出来なかった。

"皮肉"の理由は、当時の勤務先の規模では、"システム"と称するような高度なものは必要なかったためである。
分かってはいたが、データベースに没頭する自分を制御出来なかった。当時の自分にとって、これほど知的好奇心を喚起し、満たしてくれるものはなかった。"業務に活用"ではなくほとんど"趣味"になってしまっていた。

本業である無線機器や設備に関する勉強は完全に後回しになってしまっていた。中途入社の身としては相当にハードルの高い職種であった。本末転倒。このままでは、一人前の無線技術者になれないかもしれない。
M社長はそんな事を当初から見抜いていたからこそ、落ちこぼれつつある自分を冷ややかに見ていたのである。
いや、それは正確ではない。M社長はとても心優しく、人情味のある誠実な人柄である。
本業よりも他のものに情熱を傾けている不良社員に困り果てて、半ば諦めつつあったのだろうと思う。

徐々に自分の立ち位置が怪しくなっていくのを認識しつつ、データベースへのこだわりは深くなる一方だった。
完全な「ミスマッチ」である。三和無線での自分の存在価値が低下、すなわち終わりの時が近づいていた。

みじめな「空回り」。
しかし、この時に得た教訓が、後には何者にも代えがたい貴重な財産ともなったのである。
関連記事

この記事へのコメント

管理人のみ通知 :